セルゲイ・ロズニツァ〈群像〉ドキュメンタリー3選 国葬|粛清裁判|アウステルリッツ
セルゲイ・ロズニツァ〈群像〉ドキュメンタリー3選 国葬|粛清裁判|アウステルリッツ
セルゲイ・ロズニツァ
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SERGEI LOZNITSA
OBSERVING A FACES IN THE CROWD
OFFICIAL FILM GUIDE BOOK
STATE FUNERAL
THE TRIAL
AUSTERLITZ
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池田 私が知る限りソ連共産党にはドイツにおけるゲッベルスとかイタリア·ファシズムにおけるスタラーチェのような演出家というのはいないのですよね。 で、 そもそも面白いことにナチス·ドイツには宣伝を司るための官庁である宣伝省というものがあるじゃないですか。 ところがソ連には宣伝省は無いのですよね。 無いということを逆に言えば、全てはプロパガンダのシナリオに沿って演出されてみんな動いている。そういう世界だから逆に無いのだと思う のです。そういう中で、 フセヴォロド・メイエルホリドとかセルゲイ・エイゼンシュテインみたいな大芸術家もそれぞれ新しい文化のために貢献しようとするし。 あるいはもっと二流、 三流の芸術家とか官僚たちが正しい表現とはこうではないかと模索しながら、結果としてああいう裁判の姿が作られる。あれは一種の集団創造ですよね。文字通り集団創造だったと思います。中華人民共和国の国歌の作詞は
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いっとき「集団」となっていたと思いますが、やはり共産主義の代表的なものは集団創造なのかなと思います。 ついでに言えば「国葬」で見るスターリンの葬式は、 死んでしまったスターリンの演出と考えても良いかもしれないですね。スターリンというのは一つの大きなテキストですから、みんなでスターリンというテキストを読んで、スターリンを悼むためにはこうしたら良いだろうとフルシチョフやマレンコフがみんなで力を合わせて考えてあの壮大な葬式ができたわけです。 あれはスターリンの最後の作品と言っても私は良いのではないかと思います。 沼野 池田さんのおっしゃる通りですが、あえて一言補足するとすれば、集団創造であるということは全くその通りなのですが、ソ連と他の全体主義的な国と大きく違う点はですね、ソ連は政治指導者が芸術に直接関わるわけです。亀山郁夫さんが『磔のロシア: スターリンと芸術家たち」でスターリンが作家や芸術家とどういう関係であったか書いています。みんな直接スターリンとは何かしらのコンタクトはあるわけなのです。 スターリンも直接口を出したりします。どの程度の理解力カがあったのかはわからないですけどスターリンは芝居や映画を見ていたりします。 やはり集団創造的ではあるのですけど、政治のトップの人たちがみんな芸術、文学、映画に直接口を出すわけです。ヒトラーはわからないですけど、例えば今トランプがそんなことを言えるとはどう考えても思えないのですけど、ソ連の政治指導者たちはインテリだし芸術にもある意味深いわけですよね。 池田 スターリンと言う人は脚本に赤鈴筆で直しを入れ、ここはダメだからここを直せと言って最高の物にもっていこうとする人ですから、 芸術家にしてみたらいい迷惑でしょうけど、しかし結果として恐ろしい緊張のもとで異様な緊迫感のある作品ができていくのがスターリン時代の芸術作品です。 そういう意味ではスターリンが全体を総監督したのは間違いないですよね。
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『国葬』(2019・D) 第76回ベネチア国際映画祭 正式出品
1953年3月5日。スターリンの死がソビエト全土に報じられた。モスクワ郊外で発見されたスターリンの国葬を捉えた大量のアーカイヴ・フィルムは、同時代の200名弱のカメラマンが撮影した、幻の未公開映画『偉大なる別れ』のフッテージだった。そのフィルムにはモスクワに安置された指導者の姿、周恩来など各国共産党と東側諸国の指導者の弔問、後の権力闘争の主役となるフルシチョフら政府首脳のスピーチ、そして、ヨーロッパからシベリアまで、国父の死を嘆き悲しむ幾千万人の人の顔が鮮明に記録されていた。67年の時を経て蘇った人類史上最大級の国葬の記録は、独裁者スターリンが生涯をかけて実現した社会主義国家の真の姿を明らかにする。
『粛清裁判』(2018・D) 第75回ベネチア国際映画祭 正式出品
1930年、モスクワ。8名の有識者が西側諸国と結託しクーデターを企てた疑いで裁判にかけられる。この、いわゆる「産業党裁判」はスターリンによる見せしめ裁判で、90年前に撮影された法廷はソヴィエト最初期の発声映画『13日(「産業党」事件)』となった。だが、これはドキュメンタリーではなく架空の物語である——— 発掘されたアーカイヴ・フィルムには無実の罪を着せられた被告人たちと、彼らを裁く権力側の大胆不敵な共演が記録されていた。捏造された罪と真実の罰。スターリンの台頭に熱狂する群衆の映像が加えられ再構成されたアーカイヴ映画は、権力がいかに人を欺き、群衆を扇動し、独裁政権を誕生させるか描き出す。
『アウステルリッツ』(2016・D) 第73回ベネチア国際映画祭 正式出品
ベルリン郊外。真夏の陽光を背に吸い寄せられるように群衆が門を潜っていく。“Cool Story Bro”とプリントされたTシャツを着る青年。辺り構わずスマートフォンで記念撮影をする家族。誰かの消し忘れた携帯からはベートーヴェン交響曲第五番「運命」の着信音が鳴り響く。ここは第二次世界大戦中にホロコーストで多くのユダヤ人が虐殺された元強制収容所だ——— 戦後75年、記憶を社会で共有し未来へ繋げる試みはツーリズムと化していた。私たちは自らの過去にどのように触れたらよいのだろうか。ドイツ人小説家・W.G.ゼーバルト著書「アウステルリッツ」より着想を得て製作した、ダーク・ツーリズムのオブザベーショナル映画。
セルゲイ・ロズニツァ 映画監督
ベルリン在住。1964年ベラルーシで生まれ、ウクライナの首都キエフで育つ。科学者としてウクライナの国立機関でAIの研究をしていたが、1991年、ソ連崩壊後、モスクワの全ロシア映画大学に入学する。1996年よりソクーロフの製作で有名なサンクトペテルブルク・ドキュメンタリー映画スタジオで映画製作を始め、これまで21作のドキュメンタリーと4作の長編劇映画を発表してきた。長編劇映画では『In The Fog』(2012)が第65回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、『Donbass』(2018)が第71回カンヌ国際映画祭「ある視点部門」最優秀監督賞に輝く。2010年以降製作した10作品全てが世界三大映画祭に選出される快挙を成し遂げる。
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